【フォーラムレポート】首都圏郊外主要百貨店 店長パネルディスカッション|地域百貨店ならではの強みと提供価値(2026年9月24日開催)
2026年9月24日、リーガロイヤルホテル東京にて「首都圏郊外主要百貨店 店長パネルディスカッション」が開催された。京急百貨店、そごう千葉店、髙島屋柏店、東急百貨店吉祥寺店の代表者が登壇し、「地域百貨店ならではの強みと提供価値」をテーマに、各店の現状分析と今後の店づくりについて議論が交わされた。

開催概要
| 日時 | 2026年9月24日(木)14:00〜16:30 |
| 会場 | リーガロイヤルホテル東京 2階「サファイア」 |
| テーマ | 地域百貨店ならではの強みと提供価値 |
| 主催 | 株式会社ストアーズ社 |
登壇者(企業名50音順)
| 氏名・役職 | 所属 |
|---|---|
| 大山 哲男 氏 取締役 営業本部副本部長 | 株式会社京急百貨店 |
| 金子 美緒 氏 店長 | 株式会社そごう・西武 そごう千葉店 |
| 高橋 清吾 氏 店長 | 株式会社髙島屋 柏店 |
| 菱川 鉄太郎 氏 店長 | 株式会社東急百貨店 吉祥寺店 |
全体要旨
物を買う場所から、地域の人々が「訪れたい」「過ごしたい」と思える場所へ。郊外百貨店の価値は、地域とともに来館理由をつくる力にある。
4店に共通していたのは、入店客数の減少を共通課題として認識しつつ、物販にとどまらない「体験価値」「滞在価値」の提供へと軸足を移している点である。鉄道、大学、商店街、地域の事業者など、沿線・地域の資源と連携することで、オンラインでは得られない独自の来館理由を生み出そうとしている。
顧客面では、既存の中高年顧客を大切にしながら、30〜50代の次世代層やファミリー層をいかに迎え入れるかが各店の焦点となった。商品構成の刷新、SNSや駅広告を活用した情報発信、ショッピングセンターや大型専門店との一体運営を通じて、館内回遊と再来店につなげる設計が進められている。
主要論点
- 理念不変・方法可変:地域の生活者に寄り添う原点を守りながら、実現手段を時代に合わせて刷新する。
- 集客と回遊性の向上:目的来館を館全体の回遊へつなげ、若年層・ファミリー層の来館機会を増やす。
- 商品構成の刷新と一体運営:次世代層に向けたMD再編と、SC・大型専門店との連携による利便性の向上。
- 地域資源との共創:鉄道、大学、商店街などとの協働で、地域ならではの体験を生み出す。
- 人の力と組織文化:従業員の主体性と提案力を高め、店の魅力を現場から磨く。
① 京急百貨店 大山 哲男 氏
「生活者本位制百貨店」の原点を守りながら、地域との共創によって来館機会を積み上げていく。
次の30年に向けた4つの重点領域
大山氏は、1996年の開店以来の理念である「生活者本位制百貨店」を軸に、開店30周年を機とした今後の取り組みを紹介した。重点領域として、①地域との共創、②百貨店とショッピングセンターの融合、③新たな事業領域への展開、④人材育成と働く環境の整備、の4つを挙げた。
百貨店とSCの融合では、2024年4月からウェブ上で新規出店を募集する取り組みを開始し、新たなブランドとの接点を広げている。新事業領域では、2024年3月より外部の商業施設やフードホールの運営管理業務を受託し、店舗で培った商業運営力を新たな収益基盤として育てている。
沿線資源を体験価値に変える
地域との共創では、商業施設、商店街、行政、学校などと連携し、施設単独では実現できない体験の創出を進める。鉄道イベントは新たな目的来館を生み、館内回遊と再来店につながることが確認された。大学との産学連携や地域のブルワリーとの協業など、地産地消やフードロス削減といった社会的価値と、商業体験を結び付ける取り組みも広がっている。
イベントを単発の成果で評価せず、館内回遊や再来店へのつながりを長期的に捉える姿勢も示された。取引先をパートナーと位置付け、地域の顧客に喜ばれる商品や体験をともにつくり上げることで、地域に選ばれ続ける百貨店を目指す。30周年は「終点ではなく加速点」であるとの言葉で締めくくられた。
② そごう千葉店 金子 美緒 氏
「安心して買える標準」を超え、「わざわざ行きたくなる百貨店」へ。
顧客視点から始めるリモデル準備
そごう千葉店は、地域最大級の売上規模と高い購買率を強みとする一方、入店客数の減少と若年層との接点づくりを課題に挙げた。2027年度の大規模リモデルに向け、「顧客視点」を合言葉に、約40名への顧客インタビュー、千葉エリアでの定量調査、写真による生活調査などを実施している。
調査からは、定番の品揃えや買いやすさへの評価がある一方、新鮮味に欠けるという声も多く寄せられた。「そこでしか買えない」「今の自分に合う」「安心して試せる」価値へのニーズを踏まえ、品揃え、販売サービス、環境、プロモーションの4つの軸で具体策を検討している。2025年3月には店内にマーケティングプロジェクトを立ち上げ、データと現場感覚の両面からターゲット設定と施策立案を進めている。
情報発信と従業員の主体性
新たな顧客層へのアプローチでは、Instagramや駅広告を連動させ、「今、店で何をしているか」を具体的に発信することが、ファミリー層などの新規来館に効果を上げている。あわせて、売場のビジュアルプレゼンテーションを競うコンテストや職場環境の整備を通じて、従業員の主体的な提案を引き出す組織づくりにも取り組んでいる。
開店60周年と新コンセプト
2027年に開店60周年を迎えるにあたり、同年1月から12月を「60周年イヤー」と位置付け、年間を通じて全館横断のテーマ企画を展開する。3世代での利用が多い特徴を生かし、既存顧客への感謝と、若年層の新たな来館機会の創出を両立させる考えである。
全社員アンケートや分科会での議論を経て、「上質な暮らしと新しい発見の提案」を軸とする新たなコンセプトを策定した。日常の買い物から人生の節目まで寄り添い、常に新しい発見がある店づくりを目指す。
③ 髙島屋柏店 高橋 清吾 氏
人口が増える柏商圏で、商品構成の刷新とSCとの一体戦略により次世代の顧客を迎える。
商圏の好機と課題
高橋氏は、柏商圏では人口と富裕層が増加している一方、駅前の商業施設の減少や商品構成の陳腐化により、来街の魅力が低下していたと分析した。50歳以上の既存顧客への依存度が高く、次世代層の取り込みが急務であったという。
全館改装による顧客層の拡大
2023年以降、食品、婦人服、化粧品などで全館的な改装を進め、30〜50代を中心とする次世代向けブランドの導入や食品売場の刷新を行った。商品構成の見直しとハウスカード戦略が奏功し、30〜50代の顧客が増加、売上は回復基調にある。
下期は、上期改装の効果を最大化するため、新規導入・移設ブランドの認知向上を優先して取り組む。限られた売場面積を生かし、メンズ・レディース・キッズを組み合わせた売場展開や、物販に加えてセミナーなどにも活用できる多目的スペースも検討する。IPコンテンツやリセールなど、従来の百貨店にはなかったカテゴリーについても聖域なく検討を進める方針である。
顧客基盤とエリア連携
顧客基盤の面では、9月16日に導入したアプリのデジタルポイント機能を活用し、ハウスカード会員との関係づくりを強化する。また、流山おおたかの森の拠点と柏駅前の店舗群との連携を深め、エリア一体で盤石な顧客基盤を築く考えが示された。ステーションモールなど周辺施設との一体戦略が不可欠であることも強調された。
④ 東急百貨店吉祥寺店 菱川 鉄太郎 氏
地域商店街との「共存共栄」を礎に、街と百貨店をシームレスにつなぐ、居心地のよい場所へ。
開業以来の「共存共栄」
菱川氏は、1974年の開業時から続く地域商店街との「共存共栄」の歴史が、同店のDNAであると語った。街と百貨店が一体となって魅力をつくることが、吉祥寺店ならではの強みである。
リニューアルの成果と次の課題
2022年から2023年にかけて実施した上層階のリニューアルにより、若年層やファミリー層の来館が増加した。一方で、地下食品売場への送客が十分でないという新たな課題が明らかになった。価格の見直し、地元に根差した商品の導入、カフェの設置などにより、館全体の回遊改善に着手している。
公園のように過ごせる百貨店へ
同店が新たに掲げるのは、顧客が館全体で安心してゆっくり過ごせる場所を目指す考え方である。買い物客だけでなく、休憩や待ち合わせで自然と人が集まる、井の頭公園のような存在を目指し、商品、接客、イベント、地域とのつながりの積み重ねで実現していく。
東急グループのホテルや不動産などの資源を生かした地域貢献にも取り組み、11月には受験生を応援する宿泊プランを実施する。顧客が「自分らしく暮らすための答え」を見つけられる「まちの機能」としての百貨店を目指し、商品知識とホスピタリティを備えた従業員の力を重視する。従業員の前向きな行動を評価する新たな制度も導入した。
横断テーマ① 「買う場所」から「過ごす場所」へ
4店に共通していたのは、百貨店の役割を物販の場から「過ごす場」「体験の場」へと広げようとする姿勢である。京急百貨店の多頻度来館型の場づくり、そごう千葉店の「わざわざ行きたくなる店」、髙島屋柏店の次世代向け売場、東急百貨店吉祥寺店の「公園のように過ごせる店」と、表現は異なるものの、来館そのものに価値を持たせる方向性は一致していた。
横断テーマ② 地域資源との共創
郊外百貨店の強みは、地域に根差した関係性にある。鉄道、大学、商店街、地域の事業者、グループ企業との連携は、都心の基幹店にはない独自の来館理由となる。百貨店が地域コミュニティの一員として街全体の魅力向上に関わることが、結果として館の価値を高めるという考え方が共有された。
横断テーマ③ 次世代顧客の獲得と回遊設計
入店客数の減少を補う鍵として、各店は30〜50代やファミリー層の獲得に注力している。商品構成の刷新、SNSや駅広告による具体的な情報発信、アプリやハウスカードを通じた関係づくりに加え、目的来館を館全体の回遊へつなげる設計が重視されている。
横断テーマ④ 人の力と組織文化
変革期にある百貨店にとって、現場の提案力とおもてなしの質は欠かせない。社内コンテスト、職場環境の整備、働き方の見直し、前向きな行動を評価する制度など、各店は従業員が主体的に動ける組織づくりを進めている。取引先とともに店の魅力を磨く姿勢も、各店に共通していた。
総括
地域の人々が足を運ぶ理由をつくり、来館後の体験を豊かにする。郊外百貨店の提供価値は、地域とともに更新され続けている。
今回の議論では、各店がそれぞれの立地、歴史、顧客基盤を踏まえながら、地域百貨店としての強みを再定義していることが確認された。地域の企業や商店街、学校などとの連携を深めること、新しい顧客に届く情報発信と商品構成を考えること、そして従業員や取引先とともに店の魅力を磨くこと。これらの積み重ねが、地域になくてはならない百貨店としての存在価値を支えている。
最後に、百貨店は顧客起点の小売業として良質な顧客を集めることができる唯一無二の商業施設であることが改めて強調され、取引先との協力関係の継続が呼びかけられた。
参考:当日の主な数値・発言
以下は、当日の発言内容に基づく主な数値・時期である。正式な公表資料ではなく、議事録上の参考情報として整理した。
| 会社・店舗 | 項目 | 発言上の内容 |
|---|---|---|
| 京急百貨店 | 開店 | 1996年(2026年に30周年) |
| 京急百貨店 | ウェブでの新規出店募集 | 2024年4月開始 |
| 京急百貨店 | 外部施設の運営管理受託 | 2024年3月開始 |
| そごう千葉店 | 顧客インタビュー | 約40名 |
| そごう千葉店 | マーケティングプロジェクト | 2025年3月発足 |
| そごう千葉店 | 大規模リモデル・開店60周年 | 2027年 |
| 髙島屋柏店 | 全館的な改装 | 2023年以降 |
| 髙島屋柏店 | アプリのデジタルポイント機能 | 2026年9月16日導入 |
| 東急百貨店吉祥寺店 | 開業 | 1974年 |
| 東急百貨店吉祥寺店 | 上層階リニューアル | 2022〜2023年 |
注記:本記事は、当日の議事録をもとに、読みやすさを考慮して発言趣旨を整理・編集したものです。固有名詞や数値は当日の発言内容に基づきます。
DSROと本フォーラムについて
本パネルディスカッションは、株式会社ストアーズ社が年4回開催する百貨店フォーラムの一つです。百貨店経営層・現場責任者との直接対話の場として業界に蓄積されてきた定例フォーラムに、DSROは参加および支援をしています。
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