【フォーラムレポート】大阪地区主要百貨店 店長パネルディスカッション|百貨店の本領と顧客体験の深化
関西を代表する主要百貨店の店長が一堂に会し、「百貨店の本領と顧客体験の深化」をテーマに、各社の顧客戦略、改装・売場編集、外商・CRM、人材育成、インバウンド対応、エリア連携について意見を交わした。

開催概要
| 日時 | 2026年7月16日(木)13:30〜16:00 |
| 会場 | ホテル日航大阪 4階「孔雀」 |
| 進行 | 株式会社ストアーズ 代表取締役社長 羽根 氏 |
| 形式 | 主要百貨店5社によるパネルディスカッション |
登壇者(発言順)
| 氏名・役職 | 所属 |
|---|---|
| 佐藤 行近 氏 取締役常務執行役員 阪急本店長 | 株式会社阪急阪神百貨店 |
| 米山 由紀 氏 執行役員 大丸大阪・心斎橋店長 | 株式会社大丸松坂屋百貨店 |
| 森本 陽介 氏 執行役員 阪神本店長 | 株式会社阪急阪神百貨店 |
| 和束 紀明 氏 取締役常務執行役員 あべのハルカス近鉄本店長 | 株式会社近鉄百貨店 |
| 難波 斉 氏 常務執行役員 大阪店長 | 株式会社高島屋 |
全体要旨
百貨店の本業は、商品を販売することだけではなく、人、文化、地域、コンテンツを編集し、顧客の心が動く体験を提供することへと広がっている。
各社に共通していたのは、百貨店の価値を「体験価値」「文化発信」「人による提案力」の観点から再定義している点である。歴史や地域性を土台にしながら、デジタル、アート、IPコンテンツ、長期ポップアップ、食の編集などを組み合わせ、来店目的を継続的に生み出している。
また、国内富裕層だけでなく、次世代層、ファミリー、地域の生活者、若年富裕層、多国籍化するインバウンドなど、顧客層は複層化している。各社は、売場・催事・アプリ・外商を横断して顧客接点を設計し、LTVの向上と新たな顧客基盤の形成を進めている。
人材面では、販売員の専門性、傾聴力、提案力、ホスピタリティを顧客体験の中核に置く姿勢が鮮明だった。従業員満足やウェルビーイング、現場起点の運営、取引先との協働を通じて、人の価値を最大化する取り組みが各社で進んでいる。
主要論点
- 本業の再定義:商品販売から、体験価値・文化編集・発信へ。
- 人の力の最大化:専門性、傾聴、提案力、現場力を顧客満足につなげる。
- 顧客層の多様化:富裕層、次世代、ファミリー、地域顧客、海外顧客を複層的に捉える。
- 編集力・催事力の強化:食、アート、IP、地域文化を継続的な来店動機に変える。
- 施設・エリア連携:隣接施設やグループ各社との連携により、回遊性とエリア価値を高める。
① 阪急本店 佐藤 行近 氏
「人の価値の最大化」を基軸に、世界最高水準の楽しさを備えたグローバルデパートメントストアを目指す。
百貨店の本業と人材価値
佐藤氏は、百貨店の本業を、商品を通じて文化的な刺激や心の豊かさを提供することと捉えた。その実現には、売場に立つ一人ひとりが顧客の声を傾聴し、共感し、誠実に提案し、期待を超えることが必要であると説明した。
「人の価値最大化」「現場第一主義」「取引先との協奏」を軸にサービス改革を進めた結果、顧客からの称賛は前年比56%増加し、クレームは減少したと報告した。リアル店舗の価値は、商品そのものだけでなく、人との対話と体験の質によって高まるという考えである。
3ワールドによる顧客体験設計
3カ年にわたる大規模リモデルを完了し、「世界最高水準の楽しさ」を掲げた売場づくりを推進している。重点顧客として、沿線のアッパー層、国内外の富裕層、次世代層などを設定し、①ハイエンドMD、②次世代向けMD、③上質なライフスタイル提案という3つの世界観を構築した。
9階祝祭広場や大型催事は、買物にとどまらない体験を提供する中核である。バレンタインなどの催事に加え、日本の文化・技・食に着目した新テーマ「Japan and Me」を館全体で展開し、正月、桜、紅葉など日本の季節文化をプレミアムな企画として発信していく方針が示された。
CRM・外商改革
2026年度は売上4,000億円超を目標とし、海外顧客売上30%増、ペルソナカード・ポイントカード顧客売上20%増を目指す。CRMでは、購買の習慣化、婦人ファッションを起点としたクロス購買、ラグジュアリーへのステップアップ、秋に予定する阪急阪神百貨店アプリによるデータ統合を重点に挙げた。
外商では、2022年以降、新富裕層を獲得する基盤を整備してきた。今期は、外商員によるクライアンテリングと、デジタル発信・サービスデスクを組み合わせ、外商売上1,000億円を目指す。対話とデータを融合し、顧客生涯価値を最大化する構想である。
地域・次世代への取り組み
地域社会との共感形成と次世代育成にも注力する。「阪急こどもカレッジ」では、7月22日から8月11日まで全館で約270本の講座を用意し、子どもとアーティストの共同制作などを展開する。社会貢献活動についても、NPOの紹介や病児の母親支援、環境配慮型素材の活用など、継続的な参加型活動として推進している。
② 大丸心斎橋店 米山 由紀 氏
創業300周年を機に、「本物の提供」「変化対応力」「文化発信力」を百貨店の本業として再定義する。
歴史と先進性を組み合わせたブランド発信
米山氏は、創業300周年を契機に、百貨店の価値を改めて見直したと説明した。長い歴史に裏付けられた本物を提供する力、時代や顧客の変化に対応する力、地域文化を発信する力を、今後の事業の核に据えている。
周年施策では、歴史資産を現代的に編集し、VRと連動した広告企画やアート企画などを実施した。歴史を保存するだけでなく、テクノロジーやエンターテインメントを通じて新しい顧客体験に変換することで、ブランドの再構築と来館動機の創出につなげた。
心斎橋PARCOとの協業
隣接する心斎橋PARCOとの連携は、心斎橋エリア全体の価値を高める重要な施策である。共同販促、アートイベント、従業員向けの共同休憩室、ES分科会など、顧客向けと従業員向けの両面で協働を深めている。
両館の回遊性向上や若年層との接点拡大が進み、取扱高は2年連続で1,800億円を超えたと説明した。今後は2館合計2,000億円を目標とし、顧客分析や販促連携をさらに強化する。アート関連企画では、外商売上が予算比1.4倍となるなど、文化発信と商業成果の両立も確認されている。
外商顧客の裾野拡大
関西の心斎橋店、神戸店、京都店の3店舗で外商連携を進め、相互送客による買上増加を実現している。心斎橋店顧客の他店での買上が15〜20%増加するなど、店舗横断での顧客価値向上が成果として表れている。
超上位顧客への依存を避け、ミドルランク顧客を継続的に育成することも重視する。アプリ上の高額購入顧客に特別サービスを提供し、将来の外商顧客へ移行させる取り組みは、若年富裕層との接点づくりにも有効であるとの見解を示した。
従業員体験の向上
顧客体験を高めるためには、働くスタッフが心身ともに良い状態であることが不可欠である。2027年からの中期計画では、従業員エンゲージメントやウェルビーイングを経営課題として位置付け、取引先を含む現場の意見を取り入れながら施策を具体化する方針である。
③ 阪神本店 森本 陽介 氏
「毎日が幸せになる百貨店」を掲げ、ジャパンローカル、日常、カジュアルの価値を磨く。
明確な役割設定と改装戦略
森本氏は、阪神本店の役割を、日常の暮らしを豊かにする百貨店と位置付けた。阪急本店が世界基準、劇場型、ハイエンドの体験を担う一方、阪神本店はジャパンローカル、日常、カジュアルの領域で独自性を発揮し、グループ内で補完しながら競争する考えである。
2025年には約25億円を投じ、2段階の改装を実施した。指針は「ファミリー」「ジャパンローカル」「ファン」の3つである。ロフトの導入により若年層の来店が増え、他の売場へのクロス購買も進んだ。改装後は客数106%、売上120%となり、阪急・阪神の両店を購入する顧客は7割を超えたと報告した。
食品を起点としたローカル文化の発信
食品フロアでは、単に全国の人気商品を集めるのではなく、地域の食文化を発掘し、編集し、継承する「ローカルフードの聖地」を目指している。「食祭テラス」などの催事を継続的に話題化し、地域食材や老舗との協業によって阪神限定の商品・体験を生み出している。
デパ地下、食のイベントスペース、近隣レストラン、大型専門店などを成長エンジンとして位置付け、館内外の回遊を促進する。中古レコードや古書など、百貨店では珍しいオンリーワンコンテンツも、新たな顧客層の獲得に活用している。
デジタルとコミュニティ
顧客との関係づくりでは、アプリによるコミュニティ形成や、週2回の顧客アンケートを継続している。ワイン催事では、リアルイベントからECへ誘導し、EC売上がリアル店舗に迫る成果を上げた。リアルとデジタルを分けず、一つの体験として設計するOMOの可能性を示した。
また、「クリエイターズビレッジ」などを通じて、クリエイターと売場・催事を共創し、新たなビジネス機会を生み出す。顧客を単なる買い手ではなく、テーマやコンテンツを共有するファンとして捉えることが阪神本店の特徴である。
④ あべのハルカス近鉄本店 和束 紀明 氏
物を売る「百貨店」から、地域と顧客に多様な価値を届ける百「価値」店へ。
新たな価値創造事業会社への転換
和束氏は、新たな中期経営計画において、「新たな価値創造事業会社へ」「100の価値ある店、百価値店へ」をコンセプトに掲げていると説明した。百貨店の枠を超え、顧客、地域、自治体、事業者を結ぶプラットフォーマーとなることを目指す。
あべのハルカス近鉄本店では、約3万平方メートルを対象とする大規模リモデルを進める。売場ゾーンの再構築、子ども・ウェルネス領域の強化、食品ゾーンの刷新、販売力向上を重点施策とし、顧客の滞在時間とLTVの最大化を図る。
デパ地下改装と文化発信
今年度の成長を牽引しているのがデパ地下の大改装である。惣菜売場の約6割を再編し、食品部門は前年比41%増となった。今後は、未着手の冷惣菜ゾーンにも本格的に取り組み、日常利用と特別需要の双方に対応する。
「春夏日本博覧会」では、地方自治体と連携し、従来型の物産展を超えて、地域の文化、歴史、芸術、食を一体的に発信する。鹿児島をテーマとした企画では、地域関係者と来店客がつながるコミュニティハブとしての手応えを得た。沖縄のアーティストを招くライブなど、物販に限らない「心が動く場」も重視している。
顧客基盤と販売力の強化
近鉄グループの顧客データ基盤と連携し、外商顧客を中心に上位顧客へのアプローチを強化する。セレクトショップゾーンや新たな編集ゾーンを構築し、「ファッション・コンシェルジュ・サービス」によって、売場を横断した提案を可能にする構想が示された。
販売員のモチベーションと接客力向上のため、取引先販売員も含む接客ロールプレイングコンテストを拡大する。2036年の創業100周年を見据え、地域とともに成長し、百貨店の進化を具体化していく方針である。
⑤ 高島屋大阪店 難波 斉 氏
国内顧客の構造変化と多国籍化するインバウンドを捉え、価格帯、世代、エリアをつなぐ顧客体験を再設計する。
顧客構造の変化と営業力
難波氏は、株価上昇を背景に外商が好調である一方、国内一般顧客についても万博効果などにより入店客数が増えていると説明した。ラグジュアリー市場は、海外顧客だけでなく国内富裕層による購買の比重が高まり、中間層にも回復の兆しが見られる。
一方で、ラグジュアリーと国内アパレルの間にある価格帯が不足していることを課題に挙げ、アフォーダブルラグジュアリーの拡充を進める。2027年以降のフロア改装では、価格帯の連続性と選択肢を整え、幅広い顧客が買い回れる売場を構築する考えである。
自主編集売場と人材育成
食料品分野の自主編集売場は、売上と顧客満足の両面で成果を上げている。リニューアル後に20%増となった売場もあり、地域性やテーマ性を持たせた編集が支持されている。自主編集売場は収益を生むだけでなく、社員が商品選定、仕入れ、販売、顧客分析を一貫して経験する人材育成の場としても機能している。
三世代・スポーツ・広域集客
今後は、祖父母、親、子どもの三世代で楽しめる催事を強化する。大規模な体験型催事では約3万5,000人を集めるなど、世代を超えた来店動機を創出している。南海ホークスや地域にゆかりのあるスポーツ企画も、難波エリアの歴史や地域性と結び付けた集客策として展開する。
南海電鉄との連携により、難波エリアを一体的に開発する構想も示された。高島屋単体の売上だけでなく、商業施設、不動産、交通、観光を横断してエリア価値を高め、将来的には3,000億円規模の施設価値創出を目指す。
インバウンドと長期顧客化
インバウンド顧客の購買国は約80カ国から約120カ国へ広がり、特定国への依存度は低下している。訪日前、滞在中、帰国後までをつなぐコンサルティングサービスや、国内外のポイント連携を通じて、一時的な免税売上ではなく、長期的な顧客関係を構築する方針である。
外商では担当者の高齢化を課題として捉え、20代の若手社員や専門性を持つ人材の登用を進める。金融事業との連携も強化し、商品販売にとどまらず、顧客の資産や人生に寄り添う生涯価値の最大化を目指す。
横断テーマ① 百貨店の本領は「編集」と「体験」
各社の発言に共通していたのは、百貨店の本領を「品ぞろえの多さ」だけで説明しない点である。歴史、文化、食、アート、地域、人材、デジタルを編集し、顧客が新しい発見や感動を得られる体験に変換することが、百貨店の競争力として捉えられている。
阪急本店は劇場型の体験とハイエンドな世界観、大丸心斎橋店は歴史とテクノロジー、阪神本店は日常とローカルフード、近鉄本店は地域文化とコミュニティ、高島屋大阪店は自主編集と世代横断型催事を強みにしている。方向性は共通しつつも、各店の立地、歴史、顧客基盤に基づく差別化が明確であった。
横断テーマ② 人の価値と従業員体験
顧客体験の質は、売場に立つ人の専門性、提案力、共感力に左右される。阪急本店の称賛増加、大丸心斎橋店のウェルビーイング、近鉄本店の接客コンテスト、高島屋大阪店の自主編集売場による育成など、各社は人材を単なる運営資源ではなく、価値創造の主体として位置付けている。
取引先販売員を含む現場全体のエンゲージメントを高め、顧客との対話から得た情報を売場、商品、催事、デジタル施策に戻す循環が、今後の百貨店経営の重要な基盤になると考えられる。
横断テーマ③ CRM・外商・デジタル
アプリ、カード、外商、EC、来店行動などのデータを統合し、顧客ごとに適切な体験を設計する動きが加速している。特に、既存の超上位顧客だけでなく、ミドルランク顧客、若年富裕層、アプリ上の高額購入顧客を将来の外商顧客へ育成する考え方が共通していた。
一方で、データだけでは百貨店らしい関係性は成立しない。外商員や販売員が顧客の価値観を理解し、対話を通じて提案する「人の力」と、デジタルによる利便性・継続性を組み合わせることが重要である。
横断テーマ④ インバウンドとエリア連携
インバウンドは購買国の多国籍化が進み、単一市場への依存を抑えながら成長を取り込む段階に入っている。日本文化、地域文化、食、アートなど、価格以外の価値を明確に発信し、帰国後も関係を継続する仕組みが求められている。
また、百貨店単館で顧客を囲い込むのではなく、隣接施設、グループ店舗、鉄道、不動産、地域事業者と連携し、エリア全体の回遊性を高める戦略が広がっている。心斎橋、梅田、阿倍野、難波という各エリアの個性を活かしながら、百貨店が地域のハブとなる方向性が示された。
総括
百貨店は、商品を並べる場所から、人と文化と地域を結び、継続的な来店理由を生み出すプラットフォームへ進化している。
今回の議論では、各社がそれぞれの歴史、立地、顧客基盤を踏まえながら、百貨店の本領を再定義していることが確認された。共通する方向は、体験価値の向上、文化発信、顧客層の多様化、データと人を組み合わせたCRM、地域・施設連携、人材価値の最大化である。
大規模改装や催事、アプリ、外商改革は目的ではなく、顧客の心が動き、再び訪れたくなる体験を生み出すための手段である。今後、百貨店が長期的な成長を実現するには、独自の編集力と人の提案力を磨き、地域社会や顧客との関係を継続的に更新していくことが不可欠である。
参考:当日の主な数値・発言
以下は、当日の発言内容に基づく主な数値である。正式な公表資料ではなく、議事録上の参考情報として整理した。
| 会社・店舗 | 項目 | 発言上の数値 |
|---|---|---|
| 阪急本店 | 顧客からの称賛 | 前年比56%増 |
| 阪急本店 | 2026年度売上目標 | 4,000億円超 |
| 阪急本店 | 海外顧客売上目標 | 30%増 |
| 阪急本店 | カード顧客売上目標 | 20%増 |
| 阪急本店 | 外商売上目標 | 1,000億円 |
| 大丸心斎橋店・PARCO | 2館取扱高 | 2年連続1,800億円超 |
| 大丸心斎橋店・PARCO | 将来目標 | 2,000億円 |
| 大丸関西3店 | 心斎橋顧客の他店買上 | 15〜20%増 |
| 阪神本店 | 2025年改装投資 | 約25億円 |
| 阪神本店 | 改装後の客数 | 106% |
| 阪神本店 | 改装後の売上 | 120% |
| 阪神本店 | 両店購入顧客 | 7割超 |
| 近鉄本店 | リモデル対象 | 約3万平方メートル |
| 近鉄本店 | 食品部門 | 前年比41%増 |
| 高島屋大阪店 | 自主編集売場 | リニューアル後20%増 |
| 高島屋大阪店 | 体験型催事来場者 | 約3万5,000人 |
| 高島屋大阪店 | インバウンド購買国 | 約80カ国から約120カ国へ |
注記:本記事は、当日提供された文字起こし・要約情報をもとに、読みやすさを考慮して発言趣旨を整理・編集したものです。固有名詞や数値は当日の発言内容に基づきます。
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