【フォーラムレポート】関西主要百貨店〈食品〉パネルディスカッション|「エンジョイ”デパ地下”の提供価値」と、関西5社の戦略

2026年5月14日、ホテル日航大阪にて「関西主要百貨店〈食品〉パネルディスカッション」が開催された。テーマは「エンジョイ”デパ地下”の提供価値」。近鉄・大丸松坂屋・髙島屋・阪急・阪神の食品責任者5名が登壇し、進化を続けるデパ地下の現状と、各社の次の一手を語り合った。
1. 開催概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開催日 | 2026年5月14日(木) |
| 会場 | ホテル日航大阪 |
| テーマ | 「エンジョイ”デパ地下”の提供価値」〜進化し続ける魅力・強みと、その持続のために〜 |
| 進行 | 株式会社ストアーズ 代表取締役社長 羽根 康 氏 |
登壇者(パネリスト)
株式会社 近鉄百貨店 本店 運営統括部 副店長 宮本 雅弘 氏
株式会社 大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店 営業2部 部長 的地 紀子 氏
株式会社 髙島屋 大阪店 販売第5部 副部長 日本 洋介 氏
株式会社 阪急阪神百貨店 阪急本店フード販売統括部 ゼネラルマネージャー 千賀 啓司 氏
株式会社 阪急阪神百貨店 阪神本店フード営業統括部 ゼネラルマネージャー 中尾 康宏 氏

2. 総論|「楽しくなければデパ地下ではない」
百貨店協会統計によれば、1965年に衣料品42.9%・食品17.5%だった売上構成比は、2025年には衣料品26.5%・食品25.7%。食品が衣料品にほぼ並ぶ地点まで来ており、デパ地下の存在感は年々高まっている。
進行を務めた羽根社長は、議論の前提として2つの言葉を置いた。「百貨店は平和産業」「楽しくなければデパ地下ではない」。このうえで、関西5社それぞれの進化が論じられた。
3. 各社の戦略
近鉄百貨店 本店|働き方改革と催事強化の両立
運営統括部 副店長 宮本 雅弘 氏
近鉄百貨店本店が打ち出すのは、収益と運営の両立である。働き方改革、人材確保、催事強化、FC事業の見直し——複数の打ち手を並行して進めている。
象徴的なのが営業時間の見直しだ。2026年4月、下層階の閉店時間を20時30分から20時へ前倒しした。背景にあるのは派遣スタッフ不足。「食品売場が敬遠される状況を変えたい」と宮本副店長は語る。
改装では、百貨店初・関西初出店を含む9ショップを導入。なかでも河内長野「おかきの小間商店」は、スタンドパック形式の商品構成が自家需要・カジュアルギフトの双方に刺さり、好調を維持している。
催事は年間18タイトル・22週間で、16企画が予算達成。「ギフトセット処分市&食品バーゲン」は物価高を追い風に過去最高売上を更新した。バレンタイン催事は前年比17%増。”贈答”から”自分で楽しむ”へ需要が移っていることを示す数字である。6年ぶりに復活させた紙カタログにも、想定を上回る反響があった。
大阪・関西万博では、会場スタッフ向け弁当を14万食超受注。中元・歳暮市場が縮小するなか、食品全体では前年比約3%増を確保している。
今後のキーワードは「自家需要」と「地方創生」。健康志向、地産地消、フードロス、環境対応をテーマに、地方創生アクションを強化していく。
髙島屋 大阪店|全館リニューアルによる”お客様づくり”
販売第5部 副部長 日本 洋介 氏
髙島屋大阪店が掲げるのは「お客様づくり」。①変化への対応、②リアル店舗価値の最大化、③髙島屋らしさ——この3本柱で全館リニューアルを進めている。
洋菓子市場では、手土産需要と万博需要を見据えて新規・既存ブランドを同時に強化。「手土産は髙島屋大阪店で完結」が戦略の合言葉である。
リアル店舗の価値創出の核は「できたて」と「体験」だ。売場併設厨房によるライブ感、赤福茶屋、日本酒バー、館内イートインなど、滞在を促す仕掛けが館内に並ぶ。
自主編集売場「味百選」は面積を1.6倍に拡張。和菓子・料亭・冷凍冷蔵商品・週替り企画を厚くし、髙島屋らしさを深化させた。催事は北海道展、アムール・デュ・ショコラが好調で、限定・出来たて・体験性を組み合わせることで、価格競争ではなく”価値消費”を喚起する設計である。
2026年度の方針は、①改装効果最大化、②会員化・顧客化、③ESG推進。「難波フードステーション」新設、ネスプレッソゾーン拡張、ポップアップ強化を通じて、リアル店舗のワクワク感を継続的に積み上げていく。
阪急阪神百貨店 阪神本店|「食の阪神」とオンリーブランド戦略
フード販売統括部 ゼネラルマネージャー 千賀 啓司 氏
阪神本店の進化を語る軸は「食の阪神」のブランド強化である。2022年の建替え後、LOFT誘致などにより若年層の流入が拡大し、10代〜30代後半の売上は前年比約130%と大きく伸びた。
1階食品フロアは「ジャパンローカル」をテーマに、日本各地の食を再編集。「おやつの引き出し」「うまいもんみっけ」などの独自編集売場で、”阪神でしか買えない”を打ち出している。改装後、1階売上は前年比130%、地下1階も106%。現在85のオンリーブランドを展開し、売上構成比は25%に達した。
催事「食祭テラス」は、2021年の5億円から2025年に10億円へと、4年で倍増。モンブラン、抹茶、焼き菓子といったテーマ特化型企画が当たり、テレビ・Webのメディア露出も積極的に活用している。
「食品・レストラン構成比60%」という館特性を踏まえ、阪神本店はインバウンドではなく地元日常需要に振り切る方針だ。ワインEC強化、法人向け提案、フードロス対策、混雑緩和、EC誘導といった運営面の高度化も並行して進めていく。
大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店|”できたて”と”日常性”による独自価値
営業2部 部長 的地 紀子 氏
「食の阪神」と「阪急うめだ本店」に挟まれる立地のなか、大丸梅田店が打ち出すのは”できたて”と”日常性”という独自軸である。
バレンタイン催事では、主会場を15階から5階へ移し、キャラクターフロアと連動させた。館全体回遊を強化した結果、期間中の客数は前年比43.5%増。
地下1階には”できたてゾーン”を設置。焼きたてフィナンシェ、フレッシュジュース、みたらし団子、ジェラート——香り・温度・ライブ感を意識した編集で、駅口入店客数と既存和菓子売上はいずれも二桁増となった。
カフェ&ベーカリーゾーンでは、梅田初出店を多数導入。「明日のパンを今日買う」という導線設計や、スターバックス リザーブ導入が、滞在価値を底上げしている。
2026年冬には、地下2階に「ヤマダストア大阪梅田店」を導入予定。百貨店とスーパーマーケットの融合により、”日常”と”特別”の双方を取り込む構想である。あわせてCRM強化、アプリ活用、SNS投稿価値向上、体験型催事強化、人手不足・物流・ロス問題への対応など、中長期課題にも踏み込む。
阪急阪神百貨店 阪急本店|”世界最高水準の楽しさ”とOMO戦略
フード営業統括部 ゼネラルマネージャー 中尾 康宏 氏
阪急本店が掲げるのは「世界最高水準の楽しさ」を提供するグローバルデパートメントストア戦略。ターゲットは、国内外富裕層、阪急沿線アフターミドル層、次世代層——3層を同時に取りに行く。2025年度はラグジュアリーゾーン改装に120億円を投じた。
デパ地下は館売上の約25%、年間約550億円規模を占める基幹領域である。新規顧客獲得の中核はInstagramで、デパ地下公式アカウントは2年間で1.6万人から10万人へ拡大した。ファミリア、昭和レトロ雑貨などの異業種コラボでも接点を広げている。
「デパ地下アンバサダー」「デパ地下サポーター」による共創施策も走る。商品開発、アンケート、SNS発信を通じて、ファンコミュニティそのものをつくる取り組みだ。顧客化施策では、自社カード・アプリ会員向けに新作発表会を開催。春の新作会は50名枠に約1000名の応募があった。
OMOではオンラインストアの送料無料・ポイント施策が効き、フードEC売上は前年比112%。リアルとデジタルの接点を同時に厚くしていく。
4. 総括|「体験価値型食空間」への進化と、7つの共通キーワード
本パネルディスカッションを通じて見えてきたのは、関西主要百貨店各社の軸足の移行である。単なる食品販売ではなく、「体験」「編集」「ライブ感」「日常性」「コミュニティ形成」——各社が向かう先は重なっている。
各社共通のキーワードは、次の7点に集約される。
- できたて・実演・ライブ感
- 日常利用強化
- 会員化・CRM
- SNS・デジタル活用
- 地域性・独自性
- サステナブル・フードロス対策
- “ここでしか買えない”価値創出
従来型の”物販中心デパ地下”から、”体験価値型食空間”へ。この移行が今後の競争力を分けるという点で、5社の方向性は一致していた。
5. DSROと本フォーラムについて
本パネルディスカッションは、株式会社ストアーズ社が年3回開催する百貨店フォーラム(東京・大阪・他1会場)の一つです。百貨店経営層・現場責任者との直接対話の場として業界に蓄積されてきた定例フォーラムに、DSROは参加および支援をしています。
6. ご相談・参画のご案内
DSRO設立準備室では、本レポートのような「百貨店経営の現状と進化」に関心をお持ちの自治体・企業からのご相談を随時受け付けています。
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